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広島高等裁判所 平成12年(う)128号 判決 2000年10月17日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年及び拘留二九日に処する。

原審における未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、検察官渋谷勇治が提出した広島地方検察庁検察官川野辺充子作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、弁護人久行敏夫作成の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、要するに、原判決は、原判示第一ないし同第三の各事実を認定した上、「被告人を懲役二年及び拘留二九日に処する。未決勾留日数中二九日を拘留に算入する。この裁判確定の日から四年間懲役刑の執行を猶予する。訴訟費用は被告人の負担とする。」との判決を言い渡したが、本件のように、勾留状が発せられた事実(以下「勾留事実」という。)と勾留状が発せられていない事実(以下「非勾留事実」という。)とが同一手続で併合審理され、それぞれの事実につき別個の刑を言い渡す場合における未決勾留日数の算入は、(一)まず、未決勾留日数を勾留事実に対する罪の刑に算入し、右日数が右刑を超過するときに、初めて超過部分を非勾留事実に対する罪の刑に算入することができると解すべきであり、また、(二)未決勾留日数を非勾留事実に対する罪の刑に算入できるのは、非勾留事実が勾留の要件を具備している場合に限られると解すべきところ、本件において、原判決は、未決勾留日数を勾留事実である原判示第一の脅迫及び同第二の傷害の各罪の刑である懲役刑に算入せず、非勾留事実である同第三の軽犯罪法違反の罪の刑である拘留刑に算入したものであり、かつ、被告人は定まった住居を有していて、右軽犯罪法違反の事実は、勾留の要件を具備していなかったのであるから、原判決には、刑法二一条の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

そこで、検討すると、原審記録によれば、被告人は、A子所有の普通乗用自動車のサイドバイザーを破壊したことを内容とする器物損壊及び同女に対する傷害の各事実により、平成一二年三月一三日に逮捕された上、同月一五日に勾留されたが、同年四月三日釈放され、次いで、原判示第一の事実と同一性のある脅迫の事実により、同日逮捕された上、同月五日に勾留され、同月二四日、同第一の事実及び同第二の傷害の事実によって起訴(同第二の事実につき求令状)されて、同日、同第二の事実についても勾留され、同年六月二四日から、同第一及び同第二の各事実について、それぞれ勾留期間が更新されたこと、被告人は、同年五月一一日、同第三の軽犯罪法違反の事実について在宅で起訴されたこと、同第一及び同第二の事件と同第三の事件は、併合審理されて、同年六月二六日、原判決が言い渡されたことが認められる。そして、原判決は、原判示第一ないし第三の各事実を認定した上、未決勾留日数の算定については、法令の適用において、同第一及び同第二の各事実につきいずれも懲役刑を、同第三の事実につき拘留刑を各選択した上、併合罪の処理として、法定の加重をした懲役刑と拘留刑とを併科することとし、各刑期の範囲内で被告人を懲役二年及び拘留二九日に処し、刑法二一条を適用して、未決勾留日数中二九日を右拘留刑に算入する旨判示して、主文において、右のとおり未決勾留日数を拘留刑に算入した。

ところで、裁判所が、併合罪の関係にある勾留事実と非勾留事実とを併合して審理し、被告人に対し、二個の刑を言い渡す場合における未決勾留日数の裁定通算は、まず、勾留事実に対する刑を本刑として、これに算入すべきであり、その刑期を未決勾留日数が超過する場合など特段の事情がない限り、非勾留事実に対する刑に算入することは許されないものと解すべきである(大審院大正九年三月一八日判決・刑録二六輯一九五頁、最高裁判所昭和三〇年一二月二六日第三小法廷判決・刑集九巻一四号二九九六頁、同裁判所昭和三九年一月二三日第一小法廷判決・刑集一八巻一号一五頁参照)。

これに対し、弁護人は、勾留事実と非勾留事実とが併合審理されている場合には、未決勾留が非勾留事実の審理にも利用されているのであるから、少なくとも併合決定がなされた後の未決勾留日数は、非勾留事実に対する刑に算入できると解すべきであると主張するが、右の場合であっても、未決勾留は、あくまでも勾留事実について勾留の要件が審査され、右要件が具備されているときに、勾留事実の審判のために行われるものであるから、非勾留事実が併合審理されているとの一事によって、すなわち特段の事情の有無とは無関係に、併合決定後の未決勾留日数を非勾留事実に対する刑に算入できると解釈するのは相当ではない。

そして、本件においては、右特段の事情は認められず、原判決が勾留事実に対する刑である懲役刑に未決勾留日数を算入することなく、非勾留事実に対する刑である拘留刑にこれを算入したことは、未決勾留日数の算入順序について刑法二一条の解釈適用を誤ったものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。したがって、この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

そこで、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により、本件被告事件について更に判決する。

原判決挙示の各証拠により、原判示第一ないし第三のとおりの各事実を認定し、同第一の所為は刑法二二二条に、同第二の所為は同法二〇四条に、同第三の所為は軽犯罪法一条二八号に各該当するところ、同第一及び同第二の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を、同第三の罪については所定刑中拘留刑をそれぞれ選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同第一の罪と同第二の罪については、同法四七条本文、一〇条により、重い同第二の罪の刑に同法四七条ただし書の制限内で法定の加重をし、同法五三条一項により、右懲役刑と同第三の罪の拘留刑とを併科することとし、本件各犯行の動機、態様、結果、被告人の改悛の情などの諸事情を総合考慮して、その各刑期の範囲内で被告人を懲役二年及び拘留二九日に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入し、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文により被告人に負担させることとする。

なお、弁護人は、被告人が、二九日間とはいえ、拘留刑によって身柄を拘束されると、就職が一層困難となり、場合によっては自暴自棄に陥り、これからの一生を誤るおそれも大きいと主張するが、原判示第三の軽犯罪法違反の罪は、別れ話を持ち出したA子に対して復縁を迫っていた被告人が、不安を覚えさせるような方法で同女らにつきまとったというものであり、非常に自己中心的な犯行であって、被告人の刑事責任を軽視することはできないから、右罪について、科料刑を選択することは相当でなく、前記のとおり拘留刑を選択するほかない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 重吉孝一郎 裁判官 古賀輝郎 大善文男)

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